KHARMA™シリーズ進化の系譜 ― Gen.3 AKHANとGen.3X VENOMを徹底比較

LOTAR COMBATのKHARMA™シリーズは、イスラエルの実戦部隊での運用知見をもとに世代を重ねてきたカランビットラインです。本稿では、現行ラインナップの中核をなす「KHARMA™ Gen.3 AKHAN(Viper)」と、その進化形である「KHARMA™ Gen.3X VENOM™」を取り上げ、鋼材・グリップ素材・ブレードジオメトリ・携行システムという4つの観点から、両モデルの設計思想の違いを技術的に解説します。
1. 開発背景 ― 現場のフィードバックから生まれた進化
KHARMA™ Gen.3 AKHANは、デザイナーのNir "300"氏が、自身の部隊に所属するLOZ(Lok'hama Ze'irah)インストラクターたちと共同開発したモデルです。約3年にわたる実運用でのR&Dを経て、困難な作戦環境下での知見を反映しながら設計が磨き上げられました。
Gen.3Xでは、このAKHANの設計思想をベースに、スパイン形状とエッジシステムを全面的に見直し、より攻撃的な引き切り動作に特化した「VENOM™」として再構成されています。つまりGen.3XはGen.3の単なる上位互換ではなく、運用シーンに応じて枝分かれした発展形と捉えるのが適切です。

2. 鋼材の違い ― 実績重視のM390/VG10か、次世代設計のMagnaCut™か
KHARMA™ Gen.3 AKHANは標準仕様としてM390スーパースチールを採用し、オプションで110層のVG10ダマスカス(BLACK DAMASCUS; OFFELアップグレード)を選択できます。一方、Gen.3X VENOM™はLOTAR COMBAT史上初めてMagnaCut™鋼材を全面採用したモデルです。
項目 | M390(Gen.3標準) | VG10ダマスカス(OFFEL) | MagnaCut™(Gen.3X) |
分類 | ステンレス(第3世代粉末冶金) | ステンレス(積層鍛造/VG10コア) | ステンレス(次世代粉末冶金) |
炭素 | 約1.9% | 約1.0% | 約1.15% |
クロム | 約20% | 約15% | 約10.7% |
その他添加元素 | V約4%/Mo約1%/W約0.6% | Co約1.5%/Mo約1%/V約0.3% | V約4%/Nb約2%/N約0.2% |
硬度(HRC) | 60〜62 | 60〜61 | 62〜63 |
靭性 | 中程度(炭化物量が多く欠けにはやや弱い) | 中〜やや高い(積層構造がクラック進展を分散) | 高い(非ステンレス級に匹敵) |
耐食性 | 非常に高い(クロム20%) | 良好 | 極めて高い(遊離クロムが多い設計) |
M390はクロム含有量が20%と非常に高く、耐食性・耐摩耗性において長年の実績を持つ鋼材です。炭化物量が多いぶん硬度と耐摩耗性は高い水準にありますが、その代償として靭性はやや控えめになります。VG10ダマスカスは、コバルト添加による微細な粒構造が特徴で、110層の積層構造そのものがクラックの進展を分散させる効果を持ち、扱いやすさと意匠性を両立させています。
これに対しMagnaCut™は、クロムの一部を炭化物として固定してしまう従来のステンレス鋼の構造的なトレードオフを見直し、クロム炭化物の形成を抑えることで遊離クロムを多く残す設計がなされています。結果として、クロム含有量自体はM390やVG10より少ないにもかかわらず、耐食性はむしろ高く、なおかつ62〜63HRCという高硬度と、非ステンレス系の高靭性鋼に匹敵する粘り強さを両立しています。VENOM™は、まさにこの新しい鋼材設計を実戦仕様のブレードに落とし込んだモデルと言えます。

3. グリップ素材の違い ― アルミニウムからカーボンファイバーへ
Gen.3 AKHANのグリップは、超人間工学設計のカスタムミルドアルミニウムスケールを採用しています。スケルトナイズドフレーム構造により、強度を犠牲にすることなく軽量化を実現し、乾湿両条件でのグリップ性能を高める加工が施されています。
一方Gen.3X VENOM™では、KHARMA™シリーズで初めてMilSpecカーボンファイバー製の生体工学グリップが導入されました。カーボンファイバーはアルミニウムと比較して軽量でありながら高い剛性を持ち、湿潤環境下でも確実なグリップ保持力を発揮するよう成形されています。両モデルとも、スケルトナイズドコア構造による軽量化という設計思想は共通していますが、素材そのものが金属から複合材料へと切り替わった点が大きな違いです。
なお両モデルとも、ブレードとグリップの接合部には世界初とされる独自のフィンガーリング機構(Gen.3:ComFort™ Fit Ring/Gen.3X:ComFort-Fit Loop)を備えており、保持力と回転操作の安定性を高める設計が受け継がれています。

4. ブレードジオメトリとエッジシステムの違い
Gen.3 AKHANは、フラットグラインドのクレセントブレードに補強されたティップを組み合わせ、Equilibrium™セグメンテッドホロージオメトリによって刃の抵抗を抑える設計です。スパイン側にはレザーエッジのVIPERスパインを配置し、これが逆刃方向のカット操作とグリップコントロールの両方に対応します。さらにUPPERCUT™と呼ばれるスウェッジティップにより、鋭い切っ先での貫通操作に対応しています。
Gen.3X VENOM™では、このスパイン形状が全面的に再設計されました。リカーブ形状のリップソー(のこぎり歯状)スパインを新たに採用し、逆刃方向での引き切り動作に特化しています。加えて、スウェッジ部分にはマイクロコンバットセレーションが刻まれ、負角度でのカット動作時にも安定した効きを発揮する設計です。ブレード本体のEquilibrium™セグメンテッドホロージオメトリはGen.3から継承されつつ、スパイン形状のみがより攻撃的な引き切り志向へと進化している点が特徴です。
両モデルとも、ブレード仕上げにはGHOST™ブラックマットDLCコーティング(MilSpec)が採用されており、耐傷性を高めたタクティカル仕様となっています。Gen.3では追加でブラックダマスカス仕上げのオプションが用意されています。
5. サイズ・寸法 ― 物理的な構成は共通
興味深いことに、両モデルの物理的な寸法はほぼ共通しています。重量約7.3オンス(207g)、全長9インチ(228.6mm)、刃長4インチ(101.6mm)、グリップ長5インチ(127mm)、刃厚1/4インチ(6.35mm)と、いずれも同一の数値です。つまり両モデルの違いは、携行時のバランスや取り回しといった基本的なフォームファクターにあるのではなく、鋼材特性・グリップ素材・エッジジオメトリという「中身」の設計思想にこそ表れていると言えます。
6. シースシステムと携行方法の違い
Gen.3 AKHANは、アンビデクストラス(左右両用)対応のRapideployment™ Kydexシースを標準装備し、IWBクリップによる隠匿携行と、コンバットベルトクリップによる露出携行の両方に対応します。汎用マウントシステムにより、タクティカル装備への追加取り付けも可能です。
Gen.3X VENOM™では、シース自体がカーボンファイバー製Kydexへとアップグレードされ、より軽量かつ堅牢な構成になっています。加えて、低いプロファイルと控えめな存在感を重視した新設計のコンシールドキャリークリップ(ステンレス製)が新たに導入され、日常的な携行における目立ちにくさが追求されています。標準のIWB360™クリップも引き続き搭載され、あらゆる向きからの迅速な取り出しに対応します。

7. その他の違い ― トレーニングツールとパッケージング
Gen.3X VENOM™には、実物と同一の重量・ジオメトリを持つオールスチール製のAKHAN™トレーナーを組み合わせることが可能で、実戦を想定した反復動作のトレーニングを、安全な環境で行える体制が整えられています。また梱包にも「Ouroboros(自らの尾を噛む蛇)」をモチーフにしたデザインが採用されており、再生と回帰という象徴的な意味合いが込められています。
8. まとめ ― どちらを選ぶべきか
Gen.3 AKHAN(M390/VG10ダマスカス)は、長年の実績を持つ鋼材と、金属グリップならではの剛性感を重視する運用者に適したモデルです。特にVG10ダマスカスオプションは、積層鍛造ならではの意匠性と扱いやすさを両立しており、実用性と美観の両方を求める層に向いています。
一方Gen.3X VENOM™は、MagnaCut™という最新鋼材設計とカーボンファイバーグリップの組み合わせにより、硬度・靭性・耐食性のバランスを最新の冶金技術で追求したモデルです。スパイン形状も引き切り動作に特化して再設計されており、より専門的な運用シーンを想定した進化形といえます。
いずれのモデルも、KHARMA™シリーズが一貫して掲げる「現場のフィードバックを設計に反映する」という開発姿勢のもとに生まれています。素材とジオメトリという異なるアプローチから、それぞれ異なる運用ニーズに応える設計がなされている点が、このシリーズの奥深さを物語っています。



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