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ナイフブレード鋼材の科学 ― CPM S35VN・CPM MagnaCut™・CPM3Vを徹底比較

9月2日
読了時間: 4分


LOTAR COMBATが手掛けるKATTLAN™やKHATOOL™といったモデルには、それぞれ異なる粉末冶金(Crucible Particle Metallurgy、以下CPM)鋼材が採用されています。鋼材の選定は単なるスペック競争ではなく、想定される使用環境と要求される性能のバランスによって決まります。本稿では、代表的な3種のCPM鋼材――CPM S35VN、CPM MagnaCut™、CPM3V――について、成分組成・硬度・靭性・耐食性という4つの観点から技術的に解説します。



1. CPM鋼材とは何か

CPM(Crucible Particle Metallurgy)は、溶融した鋼をガスアトマイズ法で微細な粉末状に噴霧し、それを高温高圧で焼結・圧密する製法です。従来の鋳造法では合金元素が偏析し、粗大な炭化物が形成されやすいのに対し、CPM法では炭化物が数ミクロン単位で均一に分散します。これにより、硬度を高めながらも靭性(粘り強さ)を犠牲にしにくいという、従来鋼材では両立が難しかった特性を実現しています。以下の3鋼材はいずれもこのCPM製法により製造されています。



2. CPM S35VN ― バランス型ステンレス鋼の定番

CPM S35VNは2009年、Crucible IndustriesがChris Reeve Knivesと共同で、先行するS30Vの改良版として開発したマルテンサイト系ステンレス鋼です。

成分組成(概算)

  • 炭素(C):約1.4%

  • クロム(Cr):約14%

  • バナジウム(V):約3%

  • モリブデン(Mo):約2%

  • ニオブ(Nb):約0.5%

S30Vとの最大の違いは、バナジウム炭化物の一部をニオブ炭化物に置き換えた点にあります。ニオブ炭化物はバナジウム炭化物よりも微細に形成される傾向があり、これによりS30V比でおよそ15〜20%の靭性向上を実現しながら、耐摩耗性はほぼ維持しています。研磨・加工のしやすさも改善されており、量産・カスタム双方で長年にわたり「プレミアムステンレス鋼のスタンダード」として扱われてきました。焼入れ硬度は58〜61 HRC程度で運用されることが多く、耐食性はクロム含有量14%相当に見合う良好な水準です。



3. CPM MagnaCut™ ― 炭化物設計を根本から見直した新世代鋼

CPM MagnaCut™は2021年、冶金学者Dr. Larrin Thomas氏が設計し発表した比較的新しいステンレス鋼です。

成分組成(概算)

  • 炭素(C):約1.15%

  • クロム(Cr):約10.7%

  • バナジウム(V):約4%

  • ニオブ(Nb):約2%

  • 窒素(N):約0.2%

  • モリブデンも一定量配合

MagnaCut™最大の設計思想は「クロム炭化物を意図的に形成させない」点にあります。従来のステンレス鋼はクロムの一部が炭化物として固定されてしまい、耐食性に寄与する「遊離クロム」が減少するという構造的なトレードオフを抱えていました。MagnaCut™は炭化物形成をバナジウムとニオブに委ね、クロムを可能な限りマトリクス中に遊離させることで、クロム含有量が同等以下でも高い耐食性を確保しています。72時間の塩水噴霧試験でも腐食の兆候が見られなかったとする検証結果が複数報告されています。

炭化物がクロム系より硬く微細なため、62〜64 HRC程度まで焼入れ硬度を上げても脆化しにくく、KHATOOL™ Gen.4 NIKMAT DIN™では多段階のクライオジェニック(深冷)熱処理と組み合わせることで62〜63 HRC帯の高硬度を実現しています。靭性面でも、62 HRC付近での比較で従来のステンレス系プレミアム鋼(S35VN等)を大きく上回るデータが報告されており、非ステンレスの高靭性鋼に匹敵する水準に達しているとされます。



4. CPM3V ― 靭性特化型のツールスチール

CPM3Vは1997年にCrucible Industriesが発表した非ステンレス系のツールスチールで、「折れない・欠けない」ことを最優先に設計されています。

成分組成(概算)

  • 炭素(C):約0.8%

  • クロム(Cr):約7.5%

  • バナジウム(V):約2.75%

  • モリブデン(Mo):約1.3%

クロム含有量が7.5%程度と、ステンレス鋼の目安とされる約13%を大きく下回るため、CPM3Vは非ステンレスに分類されます。炭素・クロムともに控えめに抑えつつバナジウム炭化物を中心に構成することで、D2鋼比で約50%高い耐摩耗性を持ちながら、CPM鋼材の中でも屈指の衝撃靭性を実現しています。焼入れ硬度は58〜60 HRC程度で運用されることが一般的です。耐食性についてはステンレスではないため、無塗装のままでは酸化・変色が生じる点に留意が必要で、実運用ではコーティングや小まめなメンテナンスが前提となります。



5. 3鋼材の比較まとめ

項目

CPM S35VN

CPM MagnaCut™

CPM3V

分類

ステンレス

ステンレス

非ステンレス(ツールスチール)

クロム含有量

約14%

約10.7%

約7.5%

バナジウム含有量

約3%

約4%

約2.75%

一般的焼入れ硬度

58〜61 HRC

62〜64 HRC

58〜60 HRC

靭性

中程度

高い(非ステンレス級)

非常に高い

耐食性

良好

極めて良好

低い(要メンテナンス)

開発年

2009年

2021年

1997年

数値上の傾向として、耐食性を確保しながら高硬度を求めるならCPM MagnaCut™、実績とコストのバランスを重視するならCPM S35VN、腐食よりも衝撃耐性を最優先する用途であればCPM3Vという棲み分けが成立します。いずれの鋼材も一長一短があり、「どれが最も優れているか」ではなく「どの使用環境において何を優先するか」という観点で選定されるべきものです。



6. まとめ

鋼材選定は、刃の切れ味だけでなく、想定される任務環境・メンテナンス条件・求められる耐久性によって最適解が変わります。LOTAR COMBATの各モデルにおいても、この3鋼材はそれぞれの製品コンセプトに応じて使い分けられています。素材そのものへの理解を深めることは、製品の性能を正しく評価するうえで欠かせない視点です。



 
 
 

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